2005年04月23日

感傷

私はその沼の淵を見たことがあるんだと思う。
 ・・ううん、立ったことがある。水面から霧たちのぼる沼の淵。

そのとき私の隣には黒い人影があって、男は静かに囁いた。
「行くかい?」・・
おまえが望むなら。俺は水先案内人になってもいいよ。と。

そして男は、ぽつりと続けた。
おまえとなら。その深い底まで、俺も行けそうな気がするんだ。と。

私はゾクゾクした。
身体中が汗ばみ、反して、じりじりと喉が焼けるような渇きを感じた。
 飛び込めば。今飛び込めば、この渇きは癒されるのかもしれない・・。

男は、私の肩を抱いていた。

あと一歩。

爪先に感じた小石が、ちゃぽんと静かな音を立て水面にのまれていった。

 ・・だけど結局、私は飛び込まなかった。

いったいあの沼はどこにあったのだろう・・。


今私は静かな海を泳いでいる。

ひとりで泳ぐ。水は冷たい。
だけど、身体中が、何かとても懐かしい液体に包まれているような気はする。

 あの、空の月には手が届かないから・・
 せめても海面を泳ぐ月を目指して私は必死に泳ぐのだけど、
 泳いでも泳いでも、その月影にさえやっぱり私は辿り着けない。

 海はいつまでも、どこまでも、ただ静か・・。


渇いている。私は渇いている。

 だから飛び込んだ海なのに。

この海は、私をよけいに渇かす。

 ・・私が選んだ、海。
posted by sizuku at 16:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 銀色の雫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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