2004年09月06日

「売春捜査官」

つかこうへいの「熱海殺人事件」というお芝居は、上演の度に台本ががらりと変わります。
でも、変わるんですが、変わらないんです。

んと。まったくご存知ない方に、ごくわかりやすく説明すれば、
それは「水戸黄門」とか「太陽にほえろ」という感じかなぁ。(’’)

大筋のストーリー展開は、どのバージョンも変わらないんです。
根本は変わらないんですが、その時代時代で、描かれるエピソードが変わる。

だから新しい舞台を見る度に、飽きもせず楽しめてしまうという、
つかファンにはたまらない作品のひとつなんですね。

その中でも「売春捜査官」というバージョンは、少し異質になります。

「熱海殺人事件」は、そもそも、木村伝兵衛という刑事部長と、
その愛人の女刑事、そして若い男刑事と、容疑者の大山金太郎、の4人芝居なんですが、
この「売春捜査官」というバージョンでは、木村伝兵衛がそのままの名前で女なんです。
で、本来愛人である女刑事が、かつて恋人だった男刑事として登場します。

このバージョンはもう7年程前の舞台になりますが、今日はその中から、こんな台詞を。

 若い日には恋人で、今、部下となっている熊田という男刑事が、
 ようやく事件が解決して、木村刑事部長の元から去り、
 現在の恋人であるユキエの元に帰って行くシーンです。

――――――――――――――――――――
木村  そんな不細工な女と、小さく肩寄せ合い生きていくのは楽かもしれませんが、
    私のように、性格がキツくても可愛らしい女と、時には嫉妬し、憎しみ合い、
    激しく愛し合うのも、人生楽しいかもしれませんよ。

    ・・行かないで、貴方。

    私はこの狭い捜査室の中でいつも独りでした。
    時には星の見えるテラスで、おまえを愛してると言って欲しいのです。
    時には海の見える窓辺で、
    おまえはかけがえのない女だと、二度と離したくないと、言って欲しいのです。
    おまえの為なら、世界を相手に戦えると言って欲しいんです。

    ・・誰かに守って欲しいんです。 私、寂しいんです。

熊田  ・・勘弁してください。

木村  え?

熊田  勘弁してください。
    私にはユキエのような女で、ちょうどいいんです。 勘弁してください。

木村  何を勘弁するって言うんです。
    うら若い女が、身も心も差し出して好きにしてくれって言ってんのに、
    何を勘弁するんです。

熊田  勘弁してください。 貴女は、私には、重すぎます。

木村  重すぎる。

熊田  勘弁してください。

木村  何を勘弁するんです? だから私は、何を勘弁すればいいんです。

    七十億とも八十億ともいわれる人間が、この広い地球上に生まれ、
    二人出会い、たかだか六、七十年生きていくというのに・・
    死ぬほど愛してくれるか、殺すほど憎むかしてくれなきゃ、
    女はやってらんないんだ。
    私は裸にでも何でも、好きにしてくれって言ってんのに、何を勘弁するんです。
    ええ? 私はいったい何を勘弁すればいいんです。

熊田  勘弁してください。

木村  ・・失せろっ。

――――――――――――――――――――
この台本で木村部長は「独りでも生きていける女」として描かれています。

彼女がどんなに美しくても、どんなに熊田を愛していても、
さらには熊田も、彼女をとても愛しているのですが、
それでも彼は、最後の最後に、彼女を選ばない。

何度も何度も繰り返される、熊田の悲痛な「勘弁してください」が、たまらないのです。

不器用な女。

この台本の木村部長には、そんな表現がぴったりくると思いました。

人一倍寂しがり屋で、ほんとは独りでなんか生きてはいけないのに、
他人からは、独りで生きていける女と見られてしまう。

それはもちろん、いつも強がったり素直になれない彼女自身のせいでもあるのですが。
 ・・まぁ、言ってみれば、彼女の自業自得なんです。

だけど・・じゃあ、それは誰のせい?
彼女がそんな生き方しか出来ないのは、誰のせい?
彼女自身が悪いの?

きっと彼女自身にも、それはわからないと思うのです。
わからないけど、そういう生き方しか知らない、出来ない。
誰のせいでもなく「ただそれだけのこと」なんだと思うんです。
決して彼女自身が「悪い」わけでもないんだと思うんです。

誰も、誰をも責められない・・。

だから、悲しい。だから、切ない。


つかこうへいのお芝居を観ると、必ず私は泣いちゃうんです。^^;
泣き所は、同じ舞台でも観方によって、その都度違ったりするんですが。(笑)

んと。
私はいつも「泣けるから」「泣きたくて」・・つか芝居を観てるのかもしれません。
posted by sizuku at 03:24| Comment(0) | TrackBack(0) | つかworld | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/549193

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。